超高輝度・ハイパワー白色光源に適したYAG単結晶蛍光体を開発
-レーザーヘッドライトなどLED光源では困難な超高輝度製品への応用に期待-

2015/04/22 株式会社タムラ製作所
株式会社 光波
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
概要】

株式会社タムラ製作所(代表取締役社長 田村 直樹)、株式会社 光波(代表取締役社長 中島 康裕)は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)光学単結晶グループの島村 清史グループリーダー、ガルシア・ビジョラ主任研究員らと共同で、青色LD(レーザーダイオード)を励起光源とした超高輝度でハイパワーな白色照明に最適な、温度特性の優れたYAG*1)単結晶蛍光体の開発に成功しました。

近年、低消費電力、水銀フリーへの環境側面から、青色LEDを励起光源とした白色照明が急速に普及しています。その一方で、LED光源では実現が難しいレベルの高輝度性を求める一部のプロジェクターやヘッドライトでは、青色LDを励起光源とした製品も出てきています。LDはその光学特性から、レンズやミラーでの集光が容易であり、直径数mmの面積に100W級の集光も可能です。

しかしながら、励起光のパワー密度を上げていくと、それに比例して放熱が困難になるため、LDを励起光源としたレーザー照明では、従来のLED照明ではあまり問題とならなかった蛍光体の高温時の効率が大きな課題となっていました。従来、この分野で使用されてきたYAG蛍光体は、主として酸化物原料を焼結合成*2)することによってつくられており、蛍光体温度が100℃から150℃以上になると急激に発光強度が弱くなる(内部量子効率*3)が小さくなる)弱点がありました。

今回、300℃でも内部量子効率が低下しない温度特性の優れたYAG単結晶蛍光体の開発に成功しました。この蛍光体は、シリコンの単結晶作製などで使われるCZ法により、融液から育成した単結晶YAGインゴット(図1)をベースとして、プレート状(図2)あるいはパウダー状(図3)に加工したものです。いずれの場合も室温での内部量子効率が 0.9以上で、300℃においてもそれがほとんど劣化しないという優れた温度特性を持ちます(図4)。さらに、高強度の光に対し材料自体の温度上昇が小さいという特長も併せ持ちます。照明用蛍光体部品として用いた場合、蛍光体の固定部材である低熱伝導率のバインダーや不純物を含まないため、発生した熱が放熱されやすく、温度上昇しにくいため、従来のYAG粉末蛍光体を用いた場合と比較して、より高輝度化、ハイパワー化した照明製品が可能になります。また同時に、放熱機構の簡素化を通じた機器の小型化、コストダウンへの貢献も期待されます。

この開発成果は、既に国内で2件の特許を取得、他に5件の国内、海外への特許出願済みです。レーザープロジェクター、レーザーヘッドライト等のレーザー照明製品をターゲットアプリケーションとした単結晶YAG蛍光体は、(株)タムラ製作所を通じて2015年度末での量産を目指した環境整備を進めています。



研究の背景】

近年、省電力化への要求や、蛍光灯に含まれる水銀の環境面への影響などから、低消費電力の青色LED(Light Emitting Diode)を励起光源として、蛍光体を発光させて白色を実現した白色LED照明の普及が急速に進んでいます。その一方で、LED光源では実現が難しいレベルの高輝度性を求める一部のプロジェクターやヘッドライトでは、青色LD(Laser Diode)を励起光源とした製品も出てきています。LDはその光学特性から、レンズやミラーでの集光が容易であり、直径数mmの面積に100W級の集光も可能です。しかしながら、励起光のパワー密度を上げていくと、それに比例して放熱が困難になるため、LDを励起光源としたレーザー照明では、従来のLED照明ではあまり問題とならなかった蛍光体の高温時の効率が大きな課題となっていました。

従来、この分野で使用されてきたYAG蛍光体は、主として酸化物原料を焼結合成することによってつくられており、蛍光体温度が100℃から150℃以上になると急激に発光強度が弱くなる(内部量子効率が小さくなる)弱点がありました。またこれらの蛍光体は粉体のため、実際には樹脂などのバインダーにより塊状にする必要がありますが、このようにして成型されたものは熱伝導率が悪く、容易に温度が上昇し、場合によっては不要なガスの発生さえ懸念されるなどの弱点もありました。

そこで、高熱や強い光でも劣化がなく、固定する材料も必要としない高輝度白色照明用の蛍光体の開発研究が多方面で進められてきましたが、すべてを同時に満足するような材料の見通しはありませんでした。



研究内容と成果】

こうした中、国立研究開発法人物質・材料研究機構の島村清史グループリーダー、ガルシア・ビジョラ主任研究員らは、YAGを単結晶として作製し、そのまま使用する方法を検討しました。単結晶であれば、樹脂など固定用のバインダーが不要となり、材料の持つ本来の特性を実現できることから、従来の粉末蛍光体に比べて特性も圧倒的に良くなり、劣化も防げる可能性があると考えました。

このようなコンセプトのもと、今回、株式会社タムラ製作所、株式会社光波と共同で、青色LDを励起光源とした超高輝度でハイパワーな白色照明に最適な、温度特性の優れたYAG単結晶蛍光体の開発に成功しました。

今回開発したYAG単結晶蛍光体は、シリコンはじめ多くの単結晶作製に用いられるCZ(Czochralski)法により融液から育成した単結晶YAGインゴットをベースとしています(図1)。プレート状(図2)あるいはパウダー状(図3)に加工したものについて、その特性を調べたところ、いずれの場合も室温での内部量子効率が 0.9以上で、300℃においてもそれがほとんど劣化しないという、蛍光体としては世界初となる優れた温度特性をもっていることが分かりました(図4)。更に、YAG単結晶蛍光体は、材料自体の温度が上昇しにくいという特長も併せ持つことが見出されました。開発したYAG単結晶蛍光体と従来の焼結YAG粉末蛍光体にレーザー光を照射しながら光の強度を上げていった結果、YAG単結晶蛍光体の温度上昇は常に従来の焼結YAG粉末蛍光体よりも低いことが分かりました。これはYAGを焼結ではなく、単結晶として作製することで、結晶としての品質が格段に向上したためと考えられます。

照明用蛍光体部品として用いた場合、蛍光体の固定部材である低熱伝導率のバインダーや不純物を含まないため、発生した熱が放熱されやすくなります。先述の通り、YAG単結晶蛍光体自体が温度上昇しにくいという特性を持つため、従来の焼結YAG粉末蛍光体とバインダーを使用した場合に比べて、温度上昇が非常に小さくなります。実際にプレート状に加工したYAG単結晶蛍光体の温度上昇は、非常に小さいものでした。これは、YAG単結晶よりも熱伝導率がほぼ2桁小さい固定用バインダーを使う必要がない効果が如実に表れた結果といえます。また、同じバインダーを用いて従来の焼結YAG粉末蛍光体とパウダー状YAG単結晶蛍光体(図3)を固体化し、同じように光を照射しても、YAG単結晶蛍光体の温度上昇は従来の焼結品に比べ温度上昇が小さいこともわかりました。つまり、YAG単結晶蛍光体は、従来の焼結により得られるYAG粉末蛍光体の持つ弱点を一気に解決することができると考えられます。




今後の展開】

このように、今回開発したYAG単結晶蛍光体は、従来のYAG粉末蛍光体を用いた場合と比較して、より高輝度化、ハイパワー化した照明製品が可能になると同時に、放熱機構の簡素化を通じた機器の小型化、コストダウンへの貢献も期待されます。

この開発成果は、既に国内で2件の特許を取得、他に5件の国内、海外への特許出願済みです。レーザープロジェクター、レーザーヘッドライト等のレーザー照明製品をターゲットアプリケーションとした単結晶YAG蛍光体は、(株)タムラ製作所を通じて2015年度末での量産を目指した環境整備を進めています。



参考図】

図1: YAG単結晶蛍光体インゴット



図2: YAG単結晶蛍光体プレート



図3: YAG単結晶パウダー



図4: 内部量子効率におけるYAG単結晶蛍光体と従来の焼結YAG粉末蛍光体との比較



用語解説】

(1)YAG
イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)を含む酸化物。化学式でY3Al5O12と表記される物質であり、ガーネット型構造を持つため、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)の頭文字を取り、通称YAGと呼ばれる。Ceを添加したYAGは青色を吸収し、黄色を発光する優れた蛍光体として知られる。

(2)焼結合成
粉末を融点よりも低い温度で加熱して合成すること。固相での反応なので固相反応ともいう。従来の蛍光体は焼結による固相反応で得られている。今回開発した材料は、融点よりも高い温度に加熱して一度融液とし、それを徐冷することで得られる、液体凝固により合成されている。

(3)内部量子効率
発光材料における発光特性の効率を示す指標として用いられる。YAG蛍光体の場合、蛍光体内に吸収された青色の強度と蛍光体から発する黄色の発光強度の比を表す。内部量子効率が1ということは、吸収された青色がすべて黄色に変換されることを意味する。




【本件に関するお問い合わせ先】

(研究内容に関すること)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
光・電子材料ユニット 光学単結晶グループ 島村清史(しまむらきよし)
E-mail SHIMAMURA.Kiyoshi@nims.go.jp
TEL 029-860-4692
URL http://www.nims.go.jp/group/oscg/index.html

(サンプルに関すること)
株式会社 タムラ製作所
セミコン事業開発プロジェクト室 マーケティングG
〒350-1328 埼玉県狭山市広瀬台2-3-1
TEL 04-2900-0045
E-mail sales.gao@tamura-ss.co.jp

(報道・広報に関すること)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
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E-mail pressrelease@ml.nims.go.jp


株式会社 タムラ製作所
経営管理本部 経営支援・IRグループ 竹内 夏美
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